時間の自由が、旅の質を変えました
60歳になって気づいたことがあります。
「平日の晴れた日に、自由に動ける」ということの価値です。
現役で働いていた頃、ツーリングは土日祝日が前提でした。せっかくの休日に天気が悪ければあきらめるしかないし、晴れていても道路は混みます。観光地に着けば駐車場は満車、飲食店は行列。楽しみに来たはずが、気疲れして帰るという経験を何度したことか。
でも今は違います。
天気予報を見て、「明後日の火曜日は快晴だ」と思えば、火曜日に出かければいい。それだけのことですが、これが旅のクオリティをまるごと変えてしまいます。
今回紹介するのは、群馬県高崎から原付二種スクーターで走る富士山五合目の日帰りルートです。総距離184km、朝6時に出て夕方17時には自宅に戻れます。費用は3,000円もあれば食事込みで余裕があります。
これは60歳になったからこそ成立する旅の話です。
なぜ原付二種なのか
原付二種(排気量51〜125cc)は、車でもなく、大型バイクでもない、独特のポジションを持つ乗り物です。
まず維持費が安いです。税金は年間2,400円、任意保険はファミリーバイク特約で対応でき、燃費は40〜50km/L前後が普通です。今回のルート184kmを往復しても、ガソリン代は1,000円もかかりません。
次に、有料道路の通行料が極めて安いです。今回のルートの核心部である雁坂トンネルの通行料は、普通車が740円のところ原付二種はわずか70円。往復でも140円です。
そして何より、バイクで走ること自体が気持ちいいです。
風を直接受けながら山道を駆け抜ける感覚は、車の窓越しでは絶対に味わえません。空気が変わる瞬間、温度が下がる瞬間、緑の匂いが濃くなる瞬間——それらが全部、ライダーに直接届いてきます。
ルート概要
出発地: 群馬県高崎市(自宅)
高崎市(自宅)
↓
藤岡市・秩父 経由
↓
雁坂トンネル
↓
牛奥みはらしの丘(フルーツライン)
↓
富士河口湖町
↓
富士山五合目(富士スバルライン終点)
↓
小作 河口湖店(ほうとう・下山後)
総距離: 約184km(片道)/往復約368km
所要時間: 約4時間15分(Google Maps参考値)
出発: 朝6:00 / 帰宅目安: 17:00前後
帰りは同じルートを戻ります。往復368kmです。
なおルート概要は主要地点のみを示していますが、実際には1時間に1回の休憩を厳守しています。原付二種での長距離ツーリングは疲労が蓄積しやすく、無理をすると判断力や操作精度が落ちます。道の駅やコンビニなど、こまめに立ち寄りながら走ることが安全運転の基本です。
出撃条件は3つだけ
このルートを気持ちよく走るには、条件があります。とはいえシンプルです。
① 平日であること
週末の富士スバルラインは渋滞が発生します。観光バス、レンタカー、マイカーが連なる中を原付二種で走るのは、排気ガスと精神的な疲労でかなりしんどいです。五合目の駐車場も休日は激混みです。平日なら別世界のように空いています。
② 晴れであること
これは言うまでもありません。雁坂を越えた先に富士山が見えなければ、このルートの核心部が消えてしまいます。富士山が雲に隠れた日に来てしまったら、それはただの長距離移動です。前日夜の天気予報で富士山周辺の晴れを確認してから出かけましょう。
③ 5月下旬以降であること
富士スバルラインの全線開通はGW直前です。しかしGW中は当然混雑がひどく、山梨の飲食店はどこも満席に近い状態です。ほうとうを食べようとしても、名店はどこも行列です。
加えて、5月中旬でも雁坂トンネル周辺は想像以上に寒いです。
雁坂トンネルの「寒さ」は本物です
雁坂峠は標高2,082mに位置する日本三大峠のひとつです。雁坂トンネルはその直下を貫き、全長6,625mにおよぶ日本最長級の山岳トンネルです。
5月中旬、平地が25度を超える日でも、トンネル前後の山間部は10度を下回ることがあります。
実際に走ってみると、雁坂トンネル周辺に差し掛かると気温がぐっと下がり始めます。トンネル内はさらに冷えており、6km以上にわたって冷気の中を走り続けることになります。半袖Tシャツで突っ込んだら確実に後悔します。
対策としては、薄手のウインドブレーカー程度では正直なところ力不足です。朝方の雁坂トンネルはそれほど冷えます。トンネル手前で雨合羽を着込むくらいの備えがちょうどいいです。防風・防寒を兼ねてくれますし、帰りに雨に降られた時の保険にもなります。
5月下旬になると気温が上がり、この寒さが多少やわらぎます。それもこのルートを「5月下旬以降」に設定する理由のひとつです。
フルーツラインで富士山と対面する
群馬の平野部から富士山は見えません。
高崎に住んでいれば、赤城山、榛名山、妙義山は毎日目に入ります。でも富士山は、そう簡単には見せてくれません。視界を遮る山々の向こう側にある、遠い存在です。
だからこそ、フルーツラインに入ってからの景色が刺さります。
雁坂トンネルを抜けて下り坂をこなし、フルーツラインに差し掛かると視界が一気に開けます。そこに——条件が揃っていれば——あの形が見えます。
「あ、富士山だ」
何度見ても、声が出ます。
下道を何時間もかけて走ってきた、その先にご褒美のように現れる富士山は、高速のサービスエリアから見るものとは全然違います。自分の足(とエンジン)で来たという実感が、景色の解像度を上げてくれるのだと思います。
トンネルを抜けた後の注意点
感動の余韻に浸りたいところですが、雁坂トンネルの中が半端なく寒いです。全長6,625mを冷気の中で走り抜けるのですから、当然といえば当然ですが、実際に体験するとその寒さは想像を超えます。トンネルに入る前に雨合羽を着込んでおくのが正解です。
そしてトンネルを抜けた後も気を引き締める必要があります。山梨県側はしばらく下り坂が続きます。スカッと視界が開けるせいか、ビュンビュン追い越していく車が多いです。原付二種は法定最高速度60km/h。流れに乗ろうとしてはいけません。左側を安全なペースで走り、焦らず下りましょう。
その後、山梨市から甲府盆地へと向かう「フルーツライン」に入ります。果樹園が両脇に広がる気持ちのいい道で、交通量も比較的穏やかです。ここもまた原付二種で走るのに快適なルートです。ただ快適だからこそ、スピードが出やすいです。常に安全運転を心がけましょう。
給油のタイミング
河口湖近辺で給油を済ませておくことをおすすめします。五合目へ向かう前に満タンにしておくのがちょうどいいタイミングです。

富士スバルラインは標高2,305mまで登り続ける31.6kmです。五合目まで満タンで臨まないと、上り坂でどれだけ燃料を消費するか気になって景色どころではなくなります。河口湖エリアはガソリンスタンドが複数あり、ここで満タンにしてから五合目を目指しましょう。
富士スバルラインと五合目
富士スバルライン(富士山有料道路)は、富士山北麓の富士吉田市から五合目(標高2,305m)まで続く全長31.6kmの有料道路です。原付二種の通行料は280円です。
五合目は標高2,305m。地上と比べて気温は15度前後低いことが多く、真夏でも長袖が必要なほど涼しいです。雲海が眼下に広がる日もあり、山頂方向を見上げれば登山者が行列をなしています。売店や山小屋もあり、名物の「富士山メロンパン」を食べながら景色をゆっくり眺める……というのが理想です。


スバルラインを上っている途中、駐車スペースで停まると眼下に河口湖や西湖が広がります。高度が上がるにつれて視界が広がり、晴れた日には関東平野まで見渡せることもあります。走りながら眺める余裕はないので、景色は必ず停まって味わいましょう。
原付二種のエンジンはここで少し踏ん張ることになりますが、あの景色が目に入ってしまえば、エンジンの状態なんて気にしていられません。
ただ正直に言うと、2回とも五合目の滞在時間は30分もあれば十分でした。売店のお土産は値段が高めです。ただ標高2,305mは酸素が薄く、現場ではなぜか値段が気にならなくなります。下山してから財布を見て気づく、というのが正直なところです。買いすぎ注意です。フルーツラインで富士山が見えた瞬間から、ひたすらそれに向かって走り続けてきた旅です。目的地に着いた時にはすでに満足してしまっていて、長居する気にならないのです。五合目はゴールではなく、「向かっていく途中」がこのツーリングの本質なのかもしれません。
下山後の昼食|小作でほうとうを食べる
五合目から下りてきたら、お楽しみの昼食です。朝6時出発で五合目到着が10時過ぎ、滞在30分で下山すれば11時半頃には河口湖エリアに戻ってこられます。昼食にちょうどいい時間です。
富士吉田方面に「小作」があります。山梨名物ほうとうの専門店として県内外に複数店舗を持つ老舗で、達成感を噛みしめながら食べる一杯は格別なはずです。
同じエリアには山梨のもうひとつの名物「鳥もつ煮」を出す店もあり、こちらも候補に入れたいところです。甘辛いタレで煮込んだ鳥もつは、ご飯との相性が抜群です。
ただ正直に言うと、2度のツーリングでどちらの店も「劇混み」で入れませんでした。結果としてどちらもコンビニほうとうで済ませることになりました。

これも平日設定にしている理由のひとつです。休日の河口湖周辺の飲食店はどこも行列で、入れる保証がありません。平日であれば待ち時間なく座れる可能性がぐっと上がります。3度目こそは、小作のかぼちゃほうとうか鳥もつ煮定食を、ゆっくり食べたいと思っています。
費用まとめ
軽自動車で行くと?高速ルートとの比較
同じ富士山五合目を軽自動車で目指すなら、一般的なルートは関越道・圏央道・中央道を乗り継ぐ高速ルートになります。
軽自動車・高速ルート(高崎IC→河口湖IC)
高崎IC
↓ 関越道
鶴ヶ島JCT
↓ 圏央道
八王子JCT
↓ 中央道
河口湖IC
↓ 富士スバルライン
富士山五合目
- 距離:約190km(片道)
- 所要時間:約2時間〜2時間30分(渋滞なし)
- 高速料金(ETC・軽自動車):約3,500〜4,000円(片道)
- 富士スバルライン:2,300円
つまり高速代だけで往復7,000〜8,000円、スバルラインを加えると往復で約11,000円以上かかります。ガソリン代や食事代を含めると1日で15,000円を超えることも珍しくありません。
また所要時間は短くなりますが、週末は関越道・圏央道ともに渋滞が発生しやすく、2時間以上かかることも多いです。
費用まとめ
原付二種と軽自動車でどれだけ差がつくか、比べてみます。(2026年6月時点の料金)
| 項目 | 原付二種 | 軽自動車 |
|---|---|---|
| 雁坂トンネル(往復) | 140円 | 1,180円 |
| 富士スバルライン(往復) | 280円 | 2,300円 |
| ガソリン(約368km) | 約1,000円 | 約3,700円※ |
| 小作ほうとう | 約1,300円 | 約1,300円 |
| 合計 | 約2,720円 | 約8,480円 |
※軽自動車の燃費を約20km/Lとして計算
3倍以上の差がつきます。原付二種なら3,000円で余裕がありますが、軽自動車だと1万円近くかかります。
なお、富士スバルラインは2025年10月に値上げがありました。原付二種(軽車両)は従来通り280円のままですが、軽自動車は1,680円から2,300円に上がっています。この差がさらに原付二種の魅力を際立たせています。
1回目の失敗と、2回目の正解
実はこのルート、最初から完成形だったわけではありません。
1回目は帰りのルートを「清里→佐久→下仁田→高崎」に設定しました。往復の総距離は392kmになりました。
走り始めてすぐに気づきました。「これは無理だ」と。
清里、佐久を経由する復路は、八ヶ岳周辺の山岳ルートが追加される上に距離が大幅に伸びます。朝6時に出て夕方17時に戻るというスケジュールでは、まったく余裕がありません。道の駅南きよさとで信玄ソフトでも食べて休憩しようと思っていたのですが、道の駅自体が渋滞でそれどころではありませんでした。疲れ果てて帰宅することになりました。
2回目は行きと同じルートで帰ることにしました。往復368kmになりますが、勝手知ったる道であることと、ルートの質が均一なことで、精神的にも体力的にもずっと楽でした。
「知っている道を帰る」というのは、ツーリングにおいて重要な選択肢だと学びました。
60歳だから実現できる旅
若い頃の旅は、限られた休日を詰め込むような感覚がありました。
せっかく来たんだから、もう一か所。帰りが遅くなっても、もう少し。
でも今は、そういう焦りがありません。
平日に動けるから、混まない。混まないから、ゆっくりできる。ゆっくりできるから、道中の景色が目に入る。景色が目に入るから、また来たくなる。
原付二種は速くありません。高速道路にも乗れません。それがむしろちょうどいいです。
急がないことが、旅の解像度を上げてくれるのだと、3,000円の日帰りツーリングが教えてくれました。
ただ、平日とはいえ往復368kmはそれなりにタイトです。翌日も休みの日に設定しないと体がもちません。「平日に自由に動ける」だけでなく、「翌日の予定も自分で決められる」——これも60歳になったからこそ手に入れた自由のひとつだと思っています。
帰り道には、ひとつ気づいたことがあります。
行きはずっと、富士山に向かって走っていました。フルーツラインで姿が見えてからは、あの頂に引き寄せられるように走り続けました。でも帰りは、富士山が背後にあります。同じ道、同じ景色なのに、気持ちがまるで違います。来た時の高揚感はなく、どこか静かで、少し寂しい。
それでも、また来たくなるのです。
この記事、長くなりましたが分けずに1本で書きました。ルートの話、寒さの話、コンビニほうとうの話、20分で帰ってきた話——どれも切り離せない、ひとつながりの旅の話だからです。
次はいつ、平日の晴れた日が来るでしょうか。
最後にひとつ。この記事、実はAIに手伝ってもらって書きました。走った記憶や感じたことを伝えると、誤字脱字なく、読みやすい文章にまとめてくれます。長文でも構成が整うので、ブログを書くハードルがずいぶん下がりました。良い道具は良い仕事をします。


コメント